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東京地方裁判所 平成6年(ワ)7865号 判決 1995年9月29日

原告(反訴被告)

株式会社フローリスジャパン

右代表者代表取締役

戎谷勇

右訴訟代理人弁護士

神田靖司

大塚明

中村留美

被告(反訴原告)

株式会社あむ・はうす

右代表者代表取締役

山川敦子

右訴訟代理人弁護士

安原幸彦

山口泉

主文

一  反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対し、金五五万円及びこれに対する平成五年一二月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)の請求の全部及び反訴原告(被告)のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、本訴及び反訴を通じ、これを一〇分し、その三を被告(反訴原告)の負担とし、その余を原告(反訴被告)の負担とする。

四  この判決は、反訴原告(被告)の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  本訴請求

被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金七五〇万円及びこれに対する平成五年一一月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  反訴請求

反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成五年一二月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本訴請求は、原告(反訴被告。以下「原告」という)が、被告(反訴原告。以下「被告」という)に対し、原告の商品である熊のぬいぐるみ「ロンリーベア」(以下「本件商品」という)について、被告がそのPR(商品をドラマの小道具として採用してもらったり、ワイドショーで取り上げてもらったりしてテレビの映像に乗せることを中心とする広告宣伝活動)を行う旨の契約を締結したが、被告が右契約の本旨に従ったPRを行わないとして、右契約を解除し、既払代金相当額の七五〇万円の損害を被ったとしてその賠償を求めた事案であり、反訴請求は、被告が、原告に対し、右契約を履行したとして、未払代金四〇〇万円の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、化粧品の輸入販売等を目的とする会社であり、被告は、広告宣伝に関する業務等を目的とする会社である。

2  原告は、被告との間で、平成五年一月一六日、本件商品について、要旨次の内容のPR契約(以下「本件契約」という)を締結した。

(一) PR内容

(1) 東京放送において平成五年四月一五日以降毎週木曜日に放送される予定のテレビドラマ「渡る世間は鬼ばかり」(以下「本件ドラマ」という)の中における本件商品のPR

(2) (1)の番組以外の情報番組における連動PR及び雑誌の情報ページへの掲載

(3) 本件商品についての山辺江梨との専属契約

(二) 代金

(1) (一)(1)について八〇〇万円、(一)(2)について一〇〇万円、(一)(3)について一〇〇万円

(2) 代理店分 一五〇万円

(3) 代金支払時期

① 平成五年一月一八日 三五〇万円

② 同年八月一五日   四〇〇万円

③ 同年一二月一五日  四〇〇万円

3  原告は、その後、被告に対し、本件契約の代金として七五〇万円を支払った。

4  被告は、本件ドラマにおいて、平成五年一一月中旬を過ぎても三回程度のPRをしたのみであった。

5  原告は、本件ドラマの残りの放送回数からして、被告が合計二五回分以上の放送で本件商品のPRをすることは不可能になったと考え、被告に対し、平成五年一一月二九日到達の内容証明郵便をもって本件契約を解除する旨の意思表示をして、七五〇万円の返還を請求した。

6  被告は、本件契約に基づき、本件商品のPRとして、本件ドラマ第一七話において、四一カット合計二〇二秒、第一八話において、七カット合計三一秒、第二〇話において、一〇カット八四秒、第三八話において、三カット合計二二秒、第四八話において、二カット合計二〇秒、第四九話において、二九カット合計一六七秒(以上合計九二カット五二六秒)にわたって、本件商品の露出(商品が番組に登場すること、以下同じ)を行い、また、フジテレビ「おはよう!ナイスデイ」、日本テレビ「ザ・ワイド」、テレビ東京「拝見!スターの晩ご飯」及び東京放送「スーパーワイド」の各情報番組で、本件商品を取り上げてもらい、さらに、合計七つの新聞雑誌に本件ドラマの番組宣伝とともに本件商品の写真が載り、スポーツ新聞二紙、雑誌三誌でも本件商品が取り上げられた。

二  争点

被告の行った本件商品のPRが本件契約の履行といえるかどうか。

第三  争点に対する判断

一  前記争いのない事実と証拠(甲一、二の一及び二並びに三から五まで、乙一から五まで、六の一から七まで、七から一〇まで、一一の一から四八まで、一三並びに一六、証人櫻井洋子並びに被告代表者)を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  原告代表者及び原告の従業員櫻井洋子(以下「櫻井」という)は、平成四年一一月二〇日、被告代表者及び被告の従業員中川との間で、東京放送のテレビドラマである「金曜ドラマ」又は本件ドラマにおける本件商品のPRについて打ち合わせを行い、本件ドラマは、その出演者である山辺江梨のマネージャーの山辺信雄を通じて、また、「金曜ドラマ」は、そのプロデューサーとの間で、それぞれ本件商品のPRの依頼が可能であるということであったが、その後、七〇〇万円程度の予算をもって、本件ドラマにおけるPRについて話を進めることになった。

2  被告代表者は、同年一二月、櫻井に対し、本件ドラマにおいて本件商品を露出できる回数を確定することは難しい旨を告げ、少ない露出回数でも話題になるようにしようと話したが、櫻井は、被告代表者に対し、大体の見積をファクシミリで送付して欲しい旨及びその見積には露出回数も書いて欲しい旨を告げた。そこで、被告は、平成五年一月五日ころ、原告に対し、本件ドラマ全五〇回の放送中二〇回ないし三〇回の放送での露出とし、PR費の見積を一一〇〇万円とする見積書(甲三)をファクシミリで送信した。

3  原告代表者及び櫻井は、同月一〇日、被告代表者及び山辺江梨らと打ち合わせを行い、被告代表者から、前記露出回数について、山辺江梨は本件ドラマに三〇回程度出演すると予想されるが、その出演ごとに本件商品を露出させることはできないとの話を聞いたうえで、被告との間で、前記のとおりの内容の本件契約を締結することとした。

そして、原告と被告は、同月一六日、被告の用意した契約書に対し、原告の要望により、「二五回以上分の放送で動きのある露出」との記載を追加したうえで、契約書(甲一)を取り交わした。

4  原告は、その後、被告に対し、本件契約の代金として金七五〇万円を支払った。

5  被告は、平成五年一一月中旬を過ぎても、本件ドラマにおいて三回程度のPRをしたのみであったため、原告は、本件ドラマの残りの放送回数からして、被告が前記約定の二五回分以上の放送で本件商品のPRをすることは不可能になったと考え、前記のとおり、被告に対し、本件契約の解除と既払金七五〇万円の返還請求を通知した。

6  被告は、本件契約に基づき、本件商品のPRとして、東京放送のテレビドラマである東芝日曜劇場「愛のくらし」において、一四カット合計九五秒、また、本件ドラマの第一七話において、四一カット合計二〇二秒、第一八話において、七カット合計三一秒、第二〇話において、一〇カット八四秒、第三八話において、三カット合計二二秒、第四八話において、二カット合計二〇秒、第四九話において、二九カット合計一六七秒(以上合計一〇六カット、六二一秒)にわたって本件商品の露出を行い、フジテレビ「おはよう!ナイスデイ」、日本テレビ「ザ・ワイド」、テレビ東京「拝見!スターの晩ご飯」、東京放送「スーパーワイド」の各情報番組で、本件商品を取り上げてもらい、さらに、合計七つの新聞雑誌に本件ドラマの番組宣伝とともに本件商品の写真が載り、スポーツ新聞二紙、雑誌三誌でも本件商品が取り上げられた。

二  本件契約の合意内容について

1 前認定のとおり被告は原告に対し本件ドラマにおける本件商品の「二〇回ないし三〇回の露出」と記載した本件契約の見積書を送付していること、被告が、本件契約の交渉過程において、山辺江梨の出演ごとに本件商品を露出することはできないとしながらも、山辺江梨が本件ドラマに三〇回ほど出演することを前提に交渉を進めていたこと及び本件契約の契約書に「二五回以上分の放送で動きのある露出」と記載されたことからすれば、本件契約においては、本件商品が本件ドラマにおいて、二五回程度の効果的な露出のされることが契約内容となっていると認めるべきである。

これに対し、被告は、本件契約の契約書上の前記「二五回以上分の放送での動きのある露出」との記載部分は、例文であり、法的効果はないと主張するが、本件契約の交渉過程において、二〇回ないし三〇回の露出回数が前提とされ、右回数が最終的に二五回以上として契約書上にも記載されたという前記認定事実に照らすと、右主張は採用できない。

2 そして、本件契約においては、前記のとおり、被告は、原告に対し、本件商品について広告媒体との間でどのような交渉と合意をして、PRをするのかについては具体的な説明をしておらず、被告に一任された形で前記露出回数が定められたこと及び本件ドラマにおける露出の代金、連動PR代金及び山辺江梨との専属契約料がいずれも原告から被告に対する一括支払という形で合意されていることからすれば、本件契約は、被告が本件商品を本件ドラマの二五回放送分程度に適宜露出させ、これと併せて連動PR活動を行う仕事を請け負った請負契約と認めることができる。

もっとも、本件契約のような商品のPRは、一回でも商品がテレビ画面に登場すれば、それなりの効果をもたらすものと考えられるから、例え被告が一定回数の露出を約束し、その回数分の露出は達成できなかったとしても、ある程度の回数の露出があり、その回数テレビ画面に当該商品が様々な態様で登場し、視聴者の注目を引く可能性が生じたことによって、その頻度や露出の態様に応じた一定のPR効果は上がったものと認められるのであり、請負契約の目的はその限度までは、達成されたといい得るのである。したがって、本件契約は、およそそこで約束された回数の露出がなければ、請負の目的が達成されないというものではなく、達成された露出の回数や態様に応じた目的の達成度があるものというべきである。このことに加え、本件においては、前認定のように、被告が櫻井に対して露出回数を確定することは難しく、その回数を確約できない旨を告げて本件契約を締結していることからすれば、本件契約は、約定の露出回数を達成できない場合においても、そのPR活動により達成されたPRの効果に応じた請負代金を支払うという内容の契約とみるのが相当である。

3  なお、被告代表者は、被告と本件ドラマのプロデューサーである石井ふく子との間の合意においては、PR代金のみを定め、本件商品をどのような形で何回露出させるかは、全て石井に一任する形式を採っていたと供述するが、仮にこのような事実があったとしても、被告は、原告との間で、前記認定のとおり、二五回の露出回数を明示して本件契約を締結しているのであるから、本件商品の実際の露出回数が当初予定の回数に達しない場合の責任は、被告が負うべきものである。

他方、原告は、被告から、「ディレクターたち及び制作関係者と特に親しい人をよく知っているので、被告のいうことはよく聞いてくれる」と聞かされたため、前記契約書記載のとおりの露出によるPRができることを前提として本件契約を締結したものであると主張するが、証拠(証人櫻井、被告代表者)によれば、本件ドラマは、前記交渉当時は未だ台本のできていない段階であったところ、そのプロデューサーである石井及び脚本家である橋田壽賀子はいずれも著名な人物であって、本件ドラマも高視聴率が予想されるものであったことが認められるから、本件商品が本件ドラマにおいて、いかなる回数でもってどのような取り上げ方をされるかについては石井及び橋田の意向によるところが大きいことは、原告においても容易に予測できるところであったはずである。したがって、被告が原告に対して、本件ドラマにおける本件商品の取り上げ方は被告が言えば何とでもなると言ったとは考え難く、したがって、台本のできていない段階で、本件商品の露出回数をも含めて石井及び橋田に対し既に話が通っていて、確定しているものと考えていたとする証人櫻井の供述は採用できず、原告の右主張は理由がない。

三  被告の本件契約の履行について

1  前記一で認定した事実によれば、被告は、本件契約の履行として、本件ドラマにおいて本件商品を合計六回の放送において露出させ、これらの露出は、一放送分あたり、二カットないし四一カット、二〇秒ないし二〇二秒に及び、更にテレビドラマ「愛のくらし」において、本件商品を一四カット、九五秒にわたって、本件商品の表情を変える動きをする露出をさせたうえ、テレビの情報番組及び新聞雑誌において、連動PRを行っている。

2  これに対し、原告は、本件契約における本件ドラマでの本件商品の露出とは本件商品に特有の「表情を変える形」での露出をいうと主張するが、前記契約書における「動きのある露出」との記載のみからは、これが右表情を変える形での露出を意味するものとは直ちに認められず、前認定の本件契約の交渉過程を通じても、本件商品に必ず右のような動きを与える旨の合意があったと認めるまでには至らない。さらに、証拠(甲三、被告代表者)によれば、全国ネットゴールデンタイムのPR費は、一〇〇万円以上を要し、本件契約のPRがすべて履行されたとすれば、二〇〇〇万円以上の経費に相当する広告宣伝となることが認められるのに対し、本件契約のうちの本件ドラマ内でのPRの対価は八〇〇万円にすぎないことを考慮すれば、前記二五回の露出回数というのは、ごく短時間の露出をも含めたものとみるべきである。

したがって、被告の行った本件商品のPRは、前記のとおり、本件ドラマ内における露出回数こそ少ないものの、その露出は本件商品の名称を台詞にのせるなどPR効果の高いものであることに加え、右契約外のドラマ「愛のくらし」にも露出させてその回数の不足部分を補っているほか、本件契約に従った他の連動PRが行われていることからすれば、被告による本件契約の履行は、全体として七割程度まで行われたものというべきである。

3(一)  原告は、本件商品のテレビドラマ「愛のくらし」への露出は、あくまで本件ドラマのプロデューサーの好意によるものであり、本件契約の履行としてなされたものではないとし、本件商品の本件ドラマにおける露出回数はわずか六回にすぎないうえ、右露出においても本件商品の表情の変化が現れていないから、PRの効果がないと主張する。

しかし、証拠(証人櫻井、被告代表者、弁論の全趣旨)によれば、本件商品の右「愛のくらし」における取り上げ方は、本件商品名及び原告の会社名を台詞に含ませているほか、本件契約の交渉過程で原告が希望していた本件商品の表情を変化させる露出の仕方であることが認められ、右露出が非常に宣伝効果の高いものであることを考慮すれば、石井がこれを単に好意により無償で露出させたものとは考え難く、被告による本件契約の履行の一環としてなされたPRと認めるべきである。

また、本件ドラマは東京放送系の全国ネットで放送されたものである(甲三、弁論の全趣旨)から、本件ドラマにおいて本件商品が露出されたことそれ自体において、相当の広告宣伝効果があったものと推認すべきであって、宣伝効果が全くなかったということはできない。

(二)  他方、被告は、本件ドラマにおける実際の本件商品の露出は、回数こそ少ないものの、価格相場からみて一二〇〇万円以上の価値があり、本件契約の代金に十分見合っていると主張し、被告代表者もその旨を述べるが、請負契約の代金額は、当事者間の契約によって定まるものであり、被告において一定回数の露出を前提として代金額を確定したうえで本件契約を締結している以上、例え広告業界においては客観的な価格相場に見合うだけの回数のPRが行われたということができるものであったとしても、直ちに契約の本旨に従った履行の全てを行ったということにはならないうえ、原告から平成五年一一月二九日に解除の意思表示を記載した内容証明郵便を受領した後は、積極的なPR活動をしなかったことは被告の自認するところであるから、被告の主張する右事情は前記認定判断を左右するに足りない

四  結論

1  以上によれば、被告は、本件契約において履行を約束した広告宣伝活動の七割に相当する分を履行したものとみるべきであるから、原告に対し、本件契約の報酬総額一一五〇万円の七割である八〇五万円の報酬請求権を有すると認めるべきところ、既に原告から七五〇万円の支払を受けているのであるから、その残額五五万円の報酬請求権を有するものというべきである。

2  よって、原告の本訴請求は、全て理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は、五五万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一二月一六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官安浪亮介 裁判官大垣貴靖)

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